「コベルコ科研レディース・フィンランド絵日記」

後編

・第六章「メダルへの道」

 海外の試合は非常にアップテンポで進行する。初戦を落としたことを悔やんでいる時間はない。特に今回は一試合置きに試合。試合と試合の間は10分空くか空かないかだ。体力の回復のことを考えるだけで精一杯だ。二試合目、オランダ。まだ疲れが残っているのに、これまた優勝候補と試合。一試合目に見事に打ち破れた速攻作戦。しかし、それを考え直している時間はもちろんない。今回も同じ作戦で行く。「ステディ」・「プル」。ズシッ!!きつい〜っ!!。今度はスペインと違ってスタートから強い。作戦どころではない。あっと言う間に2メートルほどもって行かれる。ズズッズズッ・・・ズズッ。結局自分達の試合が出来ぬまま1セット目57秒、2セット目51秒で4メートル引ききられてしまった。いくら負けたことを悔やむ時間がないとは言え、二試合連続の完敗。脳天気チームもさすがに落ち込む。「せっかくフィンランドまで綱引きをしに来たんだから、なんとしても表彰台に上がりたい。」この思いはみんな持っていたが、表彰台が遠く感じる。もし次も負けたら・・・後がない。

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後が無い・・・とぼとぼレーンを降りるコベルコ

 メダルへの望みをかけての3試合目。最重量チームスウェーデン。2度も打ち破られた作戦で再び挑戦。(だってほかにはないんだもん)1セット目、スタートはスペインと変わらない重さ。十分ストロークがかけられる。こうなったら駄目元で必死に引きまくる。綱が自分達のチームの方に動き出す。「このまま止まるなぁ〜っ!!」とみんなが思ったとき、スウェーデンがくずれた。「よしっ!!勝てる」と思った瞬間。こちらの6番の靴が脱げる。「ゲーェッ!!どないしょ!」と焦る6番とアンカー。しかし、勢いづいた綱は止まることなく我がチームへ。そしてセット獲得のホイッスルが鳴った。2セット目も、ほぼ1セット目と同じ様なゲーム運びで今大会初めての1勝。これで表彰台への道が残された。

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どうにかホッと・・・思わずガッツポーズが出る

 我がチームは昔から技術や体力で綱引きをするチームではない。いつも勝敗を左右するのは心だ。本当に楽しくみんなが盛り上がったときに自然と良い結果が付いてくる。しかしその反対の時は悲惨。(手っ取り早く言えば、本当の実力は持っておらず、ただ勢いだけで試合をするチームである。)この大会はこの1勝を期に、沈みかけていたムードがガラリと変わり良い方向へ向かっていった。靴が脱げた6番からの「靴より靴下の方が良く止まるでぇ」の冗談に「そしたらアメリカとは靴脱いでしましょか」と答えながら、次のUSAとの試合に挑む。今までの試合経過から見て、USAはスウェーデンよりも弱い。乗り気と強気が出た予選最終戦は、ここ1年間で久しぶりに味わう非常に気持ち良い試合展開。2セット連取して、チームの雰囲気は上々で決勝トーナメントへ向かった。

 決勝トーナメントは3位4位チームがコイントスをして、1位2位どちらと対戦するか抽選する。監督がコインの裏表を指定する。(と言っても、どちらが裏か表か良くわからない!!適当に指しているだけ)審判がコインを投げる。・・・・決勝トーナメント1回戦の対戦相手スペイン。「今度こそ勝ってやる」と意気込みは凄かったが、残念ながら結果は予選トーナメントと同じ結果となった。しかし、チームの雰囲気は落ち込むことはなかった。「スウェーデンには勝てる。3位には絶対なるぞぉ〜!!。」と気合い十分で3位決定戦に望んだ。

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気合十分!! ヤッタぜい!

 普段、日本国内で生活していても日の丸なんてあまり意識しない。「そう言えば祭日の電車にはあったかなぁ?」と言う程度だ。しかし、海外で試合をする時は違う。腕に付けた日の丸のワッペンが可愛い。ワールドゲームズ・インドア綱引女子銅メダル。「5チーム中の3位じゃないか。」と言う人がいるかもしれないけれど、私たちにとってこの銅メダルは胸を張って喜べるものだった。日本代表としてメダルを取れたことでホッとすると同時に何かしら心の中に自信がわいてきた。そしてこの自信が翌日の大番狂わせを引き起こした。

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念願の表彰台

・第七章「監督」

 1日目、480kg級の試合が終わり宿舎に戻ると、テレビでその日のワールドゲームズの各種目のダイジェストを放送していた。「おっ!綱引きも映るんとちがう?」と見ていたところ。「引け〜!!引け〜!!」と叫びながらバタバタと駆け回るうちの監督の姿。結構長く映っている。「また、先生(先生とは監督のニックネーム。バーベキューの時の焼きそばの先生と言う意味から始まった。)しか映れへんのと違うかぁ??」と言うか言わないかの間に、シーンが他のスポーツに変わる。「やっぱり・・・・」圧倒的強さで優勝したオランダの姿は何処に行ったのだろう?。どうもオランダの強さよりもうちの監督の走り回る姿の方が印象的だったようだ。

 日本国内の試合でもうちの監督の走る姿を楽しみにされている方が結構おられるようだ。確かに、短い手で拳を掲げ、短い足でバタバタと床を鳴らし、全身を使って叫びながら走る天才バカボンのおまわりさんの様な姿は、万国共通で滑稽なようだ。他国の選手がうちの監督のものまねをしたり、一緒に記念撮影をしたがる。モテモテだ。他国のチームは静かな我慢大会のような綱引きをするせいか、監督も静かだ。声を出しても静かに冷静に「レフトプッシュ・レフトプッシュ・・・」と言い続けるばかり。うちの監督のようなタイプはいない。綱引マガジン(綱引きの雑誌)等で、よくパフォーマンスとして監督の走る姿を書かれるが、うちの監督はパフォーマンスとして行動しているのではない。単にアガリ症なのだ。アガリ症故に勝ちたいと思えば思うほど、舞い上がり一心不乱に叫び走り回る。本人にギャグやふざけた気持ちは全くない大真面目。だからこそ、外から見ているとおもしろいのかも?。今回、テレビだけじゃなく新聞も綱引きに関する記事の所は、全てうちの監督の事で埋め尽くされていた。とかく感情の表現が無いと言われがちな日本人。表現方法が上手いとは言えないが、一生懸命さが伝わるその走る姿は、日本人のイメージを一新し、他国の人たちを味方に付けるだけのパワーを持っていた。日本の試合で監督の走る姿に、なれっこになって何も感じなくなっていた私たち選手だが、世界の舞台に出て久々に監督の存在感を再認識したのでした。

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地元の新聞

・第八章「大番狂わせ」

 480Kg級の翌日、520kg級ではメンバーを一人交代して467kgで挑戦。何と、オランダとは46kgの体重差となった。(ウゥ〜しんど!)試合の進行は480kgと同じ。ただ違うのは体重差が多くなっただけ。全く試合にならないのでは?と不安を胸に抱きつつ、試合に挑んだ。予選1試合目スウェーデン。なんとか勝ったが、やはり480kgの時より遥かに試合がきつい、今度対戦したら勝てるかなと言う感じだった。それでも2日目と言う慣れと、前日にメダルをとった安堵感で、のびのびと試合ができた。でも予選の結果は480kgの時と全く同じ。準決勝もコイントスでまたもやスペインと。著者が3位決定戦でスウェーデンに勝って銅メダルがもらえたら良いなぁ〜と思っていたら。応援団とチーム内から「スペインに勝てるでぇ!」と言う声があがった。前日と何か違う・・・・。みんな強気だ。そう銅メダルはもう一個もらったんだから、別に守りに入らなくてもいいんだ。コベルコのモットーであるチャレンジ!これを突き進めば良いんだ。

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ヨシ!!行くぞ!!

そりゃぁぁぁぁ〜・・・・・・!!

 先にオランダとスウェーデンの試合が始まった。オランダには勝てないと思ったスウェーデンは全く引こうとしない、体力を温存して3位を狙っているようだ。こんな試合はしたくないとみんなが思った。せっかくこんな遠くまで来たんだ、思いっきり悔いのない様に試合をしてやる。審判の合図と共に、後先考えずみんなが全力で試合に挑んだ。スタートからガンガン全力でストロークをかける。40秒ほど過ぎた。予選ではこの当たりで力尽きラインが崩れ引かれだしてしまった。しかし今回は違う。綱が私たちの方に来たのだ。スペインのラインが上下に揺れ崩れ始める。「もしかして、勝てる!!」全員がそう感じた時、監督が全身を使って走り、叫ぶ。会場内の声援が盛り上がる。私たちはその何とも言えない雰囲気に支えられ、疲れを忘れ全力で綱を引く。1分13秒。スペインから初めて1セット勝ち取った。2セット目は、会場の雰囲気、選手の気持ち、全てに置いて私たちが有利な状況。自然とみんなで円陣組み、誰からと言うわけでもなく、「勝てる勝てる」「行こ行こ」と声が出る。1セット目と同じ様な試合展開。いや、声援は1セット目以上に大きかったように感じる。そして1分3秒。とうとう大番狂わせが起こった。スペインに勝てたのだ。みんな決勝が残っている事も忘れて抱き合う。監督は両手を掲げて走り回る。他のどこの国のチームよりも感情豊かに喜びを全員が表現した!!。

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全員揃ってハイチーズ!!

 結局、決勝ではオランダに全く歯が立たないまま今大会を終了したが、銅メダルと銀メダル。自分達にとって十分納得のいく実力以上の成績だ。そして、この好成績のお陰で試合後のフィンランドの旅が非常に楽しいモノになった。

・第九章「友好」

 どんなスポーツでもそうだと思うのだが、国際大会では友好をはかる意味で記念品の交換を行う。今大会も対戦チーム毎に手土産を日本から持参した。持参した物は世界時計とうちわ!!。他国からはガラスの置物やタペストリー等をもらった。しかし、実際に友好に役立つ物はお土産品ではなかった。普通、国際大会では各チームにそれぞれの国のオリジナルバッチを胸に付けている。この安価な小さなバッチが友好の中心となる。選手達は互いに自分の気いった他国のバッチを自国のバッチと交換してもらうために、個人的に挨拶をし会話をする。言葉がほとんどわからなくても同じスポーツをしているせいか、身振り手振りでなぜか会話が続く。不思議な物だ。初めて海外遠征に行った2月のイギリスでは、不慣れな面が多々あり、バッチ交換をすることに気付く余裕もなかった。そのため、他国の選手と会話を交わすこともほとんど無く、暗い日本チームと思われていたかも??。しかし今回は、やたらとみんな積極的!。派手なパフォーマンスでオランダの応援に来ていた身長190cmを超すお姉さん(もともとオランダの正アンカーだが今回出産休養のため応援団に!)が大量のバッチ(ミッキーマウスの絵の可愛いバッチ・・ディズニーに許可を取っているのかどうかは知りませんが?・・)とオランダカラーに編み上げたリボンのキーホルダーを服に付けていたものだから、まぁ〜みんなたかるたかる。長身のお姉さんはオレンジ(オランダカラー)の服。たかる小さな私たちは黒のユニフォーム。・・・まるで、オレンジにたかる蟻であった。いやはや・・お恥ずかしい・・・。しかしそのかいあってか、今回チームの綱引きに対する夢が大きくなった。「もう一度この人達と会いたい」「もう一度この人達と綱引きをしてみたい」と、・・・漠然とした夢だが、今まで綱引きの勝敗に追われ忘れていた、綱引きに対する楽しさやあこがれが沸々と湧いてきた。この思いは今後、国内の試合においても変わりなく大事にしていきたい。人と人とが勝負という世界で真剣に肉体と技を磨き、ぶつかる・・・、戦争だ!!。しかし勝負の瞬間を除けば同じ事を夢見る同士である。言葉が通じなくても、国が違っても、チームが違っても、みんな綱引きが好きで集まった人たちだ。国内外問わず綱引きを通しての人の出会いの楽しさを教えられた大会であった。

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アメリカのカレンちゃん

オレンジに集るアリ??

・第十章「ワールドゲームズ」

 ワールドゲームズは非常にお祭り色が高い。ラハティーの町の中心部の公園には屋台やパビリオンが建ちにぎわっていた。そこには2001年にワールドゲームズが開催される秋田県のパビリオンもあった。パビリオンと言っても秋田の樽酒と益が置いてある一辺10mも無いほどの柵で区切られたスペース。本来公園内は飲酒禁止なのだがこのスペースだけは許可をもらっているらしい。大会終了後、この升酒を目当てに各国各種目入り交じっての大宴会となった。うちの監督はいつしか客の呼び込みになってるわ、柔術のどこかの国の選手はエキシビションマッチを始めるわと、大騒ぎ。最後にはお巡りさんが登場して解散となった。この開場でマルコと言うベタベタの関西弁を話すフィンランド人の青年と出会った。ボランティアで日本語の通訳として首都ヘルシンキからワールドゲームズに参加しているという。なぜ、そんなに日本語いや関西弁が上手いのかと訪ねると10代前半までお父さんが宣教師のため兵庫県の和田山に住んでいたという。「そうやぁ〜、和田山やでぇ〜、無茶苦茶田舎やでぇ〜」・・・と、マルコの意見。ささいな出会いだが、おなじ言葉(関西弁)を話す、変なフィンランド人。今回の旅の思い出の一つである。

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マルコ君

 「ワールドゲームズ」・・今まで、その様な大会があることもほとんど知らなかった私たちだったが、今回参加することによって秋田の大会が非常に楽しみになった。自分達が選手で出れなくとも、「絶対、見に行こうや」との会話を交わしながら、ラハティーを後にしたのであった。

 

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